フローにんげんの一日

しょーもない日々にしょーもない突っ込み!

おじいちゃん

f:id:jctam:20190709225622j:plain
僕はジムの受付をしている、非常に暇な仕事である。だからお客さんとよく話をする。

菅乃さんというおじいさんがいて、来る度ごとにいっつも同じ話をする。まずは天気の話に始まり、近所のうなぎ屋が昼飯前に匂いを立てれば、筋肉を作る食べ物の話と、そいつが160日で入れ替わる話、二の腕を太く見せたいならば、三頭筋を鍛えなきゃといい「あんちゃん責めてマッチョは無理でも、細マッチョにはならなきゃ、だめだ」と首を振る。

僕は毎日同じ話を、感心しながら聞いている。時には「なるほど~」といい、また時には「へ~そうなんですか~」という。この度に菅乃さんは「本当に分かっているのかねぇ」とか「心配だなぁ」とか言っている。

昨日も菅乃さんは同じ話をして、僕は相槌を打っていた。実に楽しい仕事である。けれどもいつもの話が終わって、帰る前にふと菅乃さんが「あんちゃんいっつも同じ反応しかしないんだな」と呟いた。僕はちょっと迷った後で「ええ、そうですね」と答えてしまった。菅乃さんはちょっと唇を歪ませたが、どういう意味かは分からなかった。

そして今朝、やっぱり菅乃さんはやって来た。それから天気の話が始まり、うなぎの匂いに、筋肉の話。僕は勇気を出して菅乃さんに言ってみた「菅乃さん、いつも同じ話をしてますね」すると菅乃さんは「あんちゃんが忘れているからな」と笑って再び筋肉の事を話し始めた。そのおじいちゃんは、もはやお客さんではなくて、僕の友達になっている。

菅乃さんは明日も、明後日も、1ヶ月後も同じ話をするかも知れない。そしたら僕も、明日も、明後日も、1ヶ月後も同じ相槌を打つことになる。時には忘れていたことを思い出し、本気で感動しながら、また時には覚えていたために、ちょっと面倒臭そうに。

そしてそのお陰で、いつまでも覚えていられることがある。それがその内容のない詰まらない話と、内容がない詰まらない話に、愛が詰まっていたことを。