フローにんげんの一日

しょーもない日々にしょーもない突っ込み!

川に向かって吠える犬

僕の婆ちゃんには、ちょっとありがたい癖がある。買い物に出掛けたら、僕や兄貴の好きな食べ物を毎回買ってきてくれる。例えば僕はエビサラダ、兄貴はクロワッサンを貰う。

ある日仕事が早めに終わり、家に帰ったことがあった。一階を覗くと、姉ちゃんと婆ちゃんが二人で座って、真っ白なパンを食べていた。聞くともなしに会話を聞けば、姉ちゃんがえらくパンを褒めている。「フルーツいっぱい」「ふんわりしていて」「しっかり味がついている」揚げ句の果てには「私はこのパン大好きなんだ」と、五回、六回と繰り返す。

後から聞いた話に寄ると、どうにか婆ちゃんに覚えて貰い、毎回白パンを買って来るよう、仕向けていたと言うことである。「でも姉ちゃんはイクラを買って貰えるじゃん」と反論すると「イクラ以外のものも食べたい」とまっすぐな目で、僕を見つめた。食に関しては純粋である。徳は捨てても得をしたがる子供のままの心である。

一週間後、婆ちゃんが街から帰ってきた。僕はエビサラダ、兄はクロワッサン、姉はイクラを貰ったのである。「あれ、婆ちゃん。白パンは?私はあれが好きなんだけどな。それに水曜日しか買えないんだよね。」とひたすら白パンを押している。婆ちゃんもまた素直な人で「そんなに珍しいのかねぇ」とうなずきながら、メモを取りだし、隣の兄は眉をひそめた。食に対する情熱は、女達だけに遺伝したようだ。

それから一週間がたち、婆ちゃんはまた街に出掛けた。家の姉ちゃんは今日はやたらと筋トレをしてた、特に聞きたいと思わなかったが「美味しく食べる」ためらしい。やがて婆ちゃんが帰ってきて、みんなの前で袋を広げた。

僕はエビサラダ、兄はクロワッサン、そうして姉は白パンである。とうとう白パンを手にした姉が、どんなに喜んだことであろう。汗に流れたカロリーをいざ摂取せん、かぶり付くものと思いきや、大口開けて噛みつく代わりに漏れでた言葉が「婆ちゃんいくらを忘れてる。」